ラーメンズ第 11 回定期公演「CHERRY BLOSSOM FRONT 345」

 このビデオの感想を述べる前に、まずひとつ、ラーメンズファンの方々及びラーメンズ本人達にまで謝っておきたいことがありまして、というのは、このビデオを観るまで……いや、正確には最後のカーテンコールを観るまで、片桐と小林を逆だと思っておりました。髪が多いメガネが小林、うちの下の階の旦那さんソックリな(知らん)方が片桐かと……すいません。「怪傑ギリジン」なんてタイトルのコントやってる時点で気付くべきだったんですが……ホントすいません。B'zで言うところの、稲葉と松本間違えてるぐらいの問題で……って分かり難いですか。すいません。ついでに更に謝っておくと、このビデオを観るまで、何故か三人組だと思っていました。ごめんなさい。TMネットワークとB'zを間違えるような、何だよ木根入ってないじゃんとかそういう……分かり難いですか。すいません。

 そんなわけで、リファ、コメント、メールフォーム等で色んな方に(沢山来すぎてこっちが驚くぐらい。ありがとうございます)勧めていただいた「CHERRY BLOSSOM FRONT 345」を、謹んで拝見させていただきました。以下は、ラーメンズに関しては「片桐はガンプラマニア」という知識しか無い人間の感想です。

 観る前の不安として一番あったのが、勧めて頂いた方や、その他の方がよ〜く書いておられた「演劇的」という単語でありました。演劇的であること自体は全く問題ないのですが、その際の演劇芝居(所謂『大きな芝居』。具体的には、オーバーアクション気味に振り返って客席を向く等)が、僕はどうも苦手でして、その所為で以前、ザ・プラン9「サークルS」を観たときに浅越ゴエのそういう芝居が引っかかって引っかかってしょうがなかった経験があるのです。

 そんな不安を抱きつつ臨んだラーメンズだったのですが、結果はやはり引っかかってしまいました。もう、小林の一発目の台詞からガッチリと。舞台という性質上、ある程度は仕方ないとは分かっているのですが、あの舞台芝居……具体的には、流暢な台詞に付けている抑揚の感じ、台詞を言っている間の表情の変化のさせ方、ひとつひとつのパントマイム……全部が引っかかって、正直なところひとつめのコントで既に挫折しかけました。ザ・プラン9なら、メンバー 5 人居る分、色んな芝居があるので観ていられますが、ラーメンズの場合、出演者が二人しか居ない上に、二人揃ってそういう芝居だったから余計に。ここでもうおひとつ謝っておくと、片桐はあんな風貌なのに、まさかあんなにまともな芝居……というか役柄をやっているとは思いませんでした。重ね重ねごめんなさい。

 ただ、走馬燈の様に頭の中を駆けめぐる勧めていただいた方々の顔ひとつひとつに(誰一人として顔知りませんが)「すいませんごめんなさい」と謝り倒しながらなんとか観続けていたら、ふたつめのコントになった瞬間、その引っかかりが薄くなりました。小林・片桐両名の芝居が、所謂コント芝居よりになってたからです。でも三つ目のコントになるとその引っかかりが再発し、しかし四つ目になると………僕のラーメンズ初体験は、その繰り返しで終わりました。

 以下は僕個人の勝手な妄言として流していただいてかまいませんが、例えば、ドランクドラゴンの塚地はコント芝居しか出来ないし、ザ・プラン9浅越ゴエだったら、ああいうこまっしゃくれた舞台演技が最も得意(ピン芸を観ての判断)という特性というかそういうのが(語彙が貧弱ですいません)あると思うのですね。

 でも、ラーメンズの場合、コント芝居の持つ「クローズアップ性」(ニュアンスでご理解下さい……)と、舞台芝居の持つ「状況演出性」、それぞれの特性を上手いこと利用して巧みに使い分けているように見えました。舞台の稽古場そのまんまみたいなステージ(失礼)に、木箱がいくつか、という簡素すぎるセットが余計にその辺を強調している上、小道具は全部パントマイム及びそれに準ずる小芝居で表現していて、ラーメンズってのは相当な芸達者なのだなぁ、ということはよ〜〜〜く伝わってきました。そこに加えて、その簡素すぎるセットの中で、衣装は常に黒ずくめながら、コントによってはシャツになったりスーツになったり、更には髪型が変わったり眼鏡付けたり取ったりと、視覚的な小さな演出もちゃんとやってるところが憎いです。

 それが最もよく見えたのが「プーチンとマーチン」というコント(?)。人形持った二人が、人形使って疑問を出しつつその疑問をシチュエーション化して実践する……という非常に説明しにくいコントで、その中ではコント芝居と舞台芝居(よく考えてみると、あれは「舞台芝居をしているコント芝居」なのかも知れませんが……)が瞬時に入れ替わっていき、二人のコンビネーションの妙もあって、非常に頭のおかしい空間に舞台を変えていて、思わず「うわぁ〜………」と声を漏らしてしまいました。ちゃんと面白かったし、これだけ見せられてもその実力はしっかりと肌に感じることが出来たと思うほど、結構なコントで御座いました。

 芝居以外の部分で(でも僕自身は、舞台芝居を観たことが一度もないというオチなんですけども)意外に思ったのは、評判の具合から勝手に、人生の悲哀とか人間のエゴとか皮肉とかを笑いにした所謂“考えさせる”笑いなのかと思って、相当構えて観たんですが、実際はそんなことはなく、実に分かり易い笑いを分かり易い形で提供してくれていました(よーーーーーーーーーーーーく考えたらものすっごく深い意味があったりするのかも知れませんが)。特にふたつめのコントで片桐のボケには「そんなんするんやね、君」みたいな生意気なことを考えたりしました。更に、やはり評判の具合から、もっとガッチガチの演劇かとも思ってたんですが、割と“遊び”の部分も多くあって、舞台上の雰囲気適度に緩やかで、実に観やすい舞台で御座いました。その“遊び”の部分をもの凄くクローズアップしたのが「怪傑ギリジン」というコントなのだと思いますが……そもそもあれはコントなんでしょうか。あの片桐の台詞ひとつひとつが全部台本なら、それはそれで驚異です。竹馬で大砲撃ったりとか。

 あと、全体的な手法として「違和感」の植え付けが上手いなぁ、という気がしました。例えば、モロな演劇だとしたら、「ストーリー」とそれに付随する「伏線」が必要になってくるわけですけど、ラーメンズの演劇コントでは、話自体はもの凄く単純で、あるひとつのシチュエーションが忽然とあるだけで、そのシチュエーションでの瞬間のやりとりを切り取る形式が、ラーメンズのコントには見受けられました。

 その中で、観客に「あれ?それちょっとおかしくない?」という違和感をふわっと引っかからせてくれて、その違和感を引っかからせたまま観ていると、ある瞬間でその違和感をバッッッシィイッと指摘する手法がとてつもなく上手いな、と。しかもそれを、笑いとしてでなく、演劇部分での盛り上げにも使ってくるから油断出来ません。例えば、レストランのコントで、二人が一人何役も突然こなし始め(突然立ち位置変えたり、突然誰もいないところに話しかけたり)、それに対して観客は「何なのそれは?」とうっすら思わせて、ある瞬間でそれを指摘することで爆笑かっさらっていました。対して、架空の作家のコントでは、初めの方から観客がうっすら抱く違和感を、じわっと指摘して背筋ゾクッ、みたいな。僕個人としては、後者の方は、片桐の芝居がずっと引っかかっててあんまり味わえませんでしたが、前者はしっかり堪能させて頂きました。

 で、それらの手法に加え、彼らの芝居が全部、ちゃんと最後のコントで結実するのはすげぇなぁ、と素直に思いました。最後のコントの完成度たるやもの凄くて、舞台芝居とコント芝居を上手いこと使い分け、最後はベタベッタな舞台演出の中で舞台演技でコント芝居にピリオドを打つ様子は、ちょっと感動的ですらありました。そりゃあ、ファンも付くってものです。

 人に勧めに従って観たこのビデオですが、結果は予想以上でした。僕はラーメンズを甘く見すぎていたようです。ここまで面白いもんだとは思わず、色々疑ってホントすいませんでした。意外なことだらけで、多少困惑はしていますが、とてつもなく芸達者な“芸人”二人による、カッチリした構成の上に立つ遊びと間の内の。非常に完成度の高い舞台コント、大変面白う御座いました。

 ただ、正直なところを申しますと、ラーメンズの評でよく見かける「他の芸人がやらないことをやっている」という風な、別格と見る向きには、今作だけではあまりピンとは来ませんでした。確かに、このビデオに収められている様子は、テレビでは成立し得ない「舞台」というシチュエーションならではのものだとは思いましたが、だからと言って別格のように見る気にはなりません。それは勿論、僕の素養がえらく低いのもあるでしょうし、僕の見る目が無いだけかも知れませんが。

 その手法に於いても、その構成に於いても、ましてやその熱意に於いても、同じ土俵、もしくはそれを違う観点から実践しようと努力していいたり、既に実践している芸人はテレビで観ているだけの僕からしたっていっぱい居ると思うし(それが成功しているかはまた別の話ですけどね)、そいつらの功績を見ないまま、ラーメンズを別格扱いにしてしまうのは、ラーメンズ自身のためにもならないし、僕個人の感情としてやはり悲しいことだなぁ、等と思ったりします。まぁ、今後ビデオを何本か観た結果、「やっぱ別格よ!」とか言い出すかも知れませんけど。

 たった一本観ただけで知ったような口叩いて関係ない話をしましたが、とにかく面白いビデオでした。これを勧めていただいたid:hilocoさん、id:boxcurioさん、id:sahyaさん、メールフォームやメールで勧めていただいた方、他ラーメンズの想いを込みでプッシュしていただいたid:omatsurilawyerさん、メールフォームから送っていただいた方、他沢山の方、有り難う御座いました。

 ……なんかエンディングみたいですが、次はどこから行きましょうかね。まずは、やっぱりお勧め通り、最新作まで時系列順に追っていきたいと思います。いつになるか分かりませんが……(万年金欠ですいません)。

 それにしても、最後の最後まで、僕には「FRONT 345」の意味が分からなかった……ガックリ。

追記:桜前線だそうです。し……知らなかった……(恥)。

 あと、謝りすぎてて逆に申し訳ない気持ちにさせてしまいまして、なんかホントすいません(また……)。