「銀のエンゼル」

銀のエンゼル

銀のエンゼル

 僕にとって、この映画の最大のトピックは「鈴井貴之」でもなく「大泉洋」でもなく「佐藤めぐみ」でもなく、村上ショージであります。「ヤンタン」でこの映画を撮っている、と聞いて以来、いつか観よういつか観ようと思い続けて幾星霜。この度ようやく拝見することが出来ました。

 最初に断っておくと、僕は鈴井作品はこれが初めてで、他の作品については「man-hole」の主題歌がカーネーションの「Garden City Life」、というぐらいの知識しかありません。そこを踏まえた上で、この映画。始まっていきなりGOING UNDER GROUNDのPVが始まったときはどうしようかと思ったけれど、内容は至極真っ当な父娘再生ドラマでありました。あまりにも真っ当で、途中無意味に不安になるぐらいに。「いいのか? そのまま行って?」っていう。

 だって、娘が父親を見限って家出して、粋な兄ちゃんが「殴られた」つって説得に来て娘が戻ってくる、って話ですよ? 教科書か。勿論、それが悪いわけでは無くて、小日向文世さんや佐藤めぐみさん、大泉洋浅田美代子さん(!)の好演や、変にBGMを鳴らしたり、アップにしたりせず、ちゃんと気を遣って「画」を作っている神経の細かそうな演出のお陰で、優しくて温かいドラマとして成り立ってはいるのだけど。

 ただ、メインのドラマのそう言った真っ当さのお陰で、サイドストーリー的に配置されたキャラクター達の妙ちきりんな味付けが、微妙に浮いてしまっているのが非常に惜しい。例えば、「水曜どうでしょう」でお馴染みの安田顕が出てくるシーンなんかそこだけパロディ映画のようだし、嶋田久作さんや西島秀俊さんのシーンは安いドラマのよう。TEAM-NACKSのカメオ出演はどれも言わずもがな。

 なんとなく共通してるように思うのは、総じて演出がカタイってことか。佐藤さんや小日向さんの、じっくりと間を使った芝居のシーンになると神経細かくなるのに、こういうコメディチックなシーンになると途端に画面が「何を映したら一番になるか迷ってる」感じになるのがすごーーく惜しい。どちらかと言ったら、こっちの方が鈴井の本分のような気がするのですが、バランスが小日向さんや佐藤さんのシーンに振れてしまったのか、これらのシーンには総じて「力」が無いように思います。大泉がもの凄く活き活きと演出されているので、余計に。

 その中で、唯一妙ちきりんな味付けをされていない山口もえなんかも、父娘の再生ドラマがあまりに真っ当だったために描くことが無くなっちゃってるのも惜しい。普通、こういう風に同時にドラマを走らせる場合、各々にテーマを持たせて、それをリンクさせることで一本のラインに仕立てあげるものだと思うのですけど、この映画の場合、重要なことは全て小日向さんと佐藤さん(と大泉洋)が持っていってしまって、山口もえのパートに残ってるのは残りカスばかりで、サイドストーリーとしてはあまりにショボかったのでした。勿体ない。

 僕のような、感性がガキな人間にとっては、こういう奇を衒わない真っ当なドラマには好感が持てるのですが、それだったらもっと全力で「真っ当」に仕立てて欲しかったな、というのが正直な感想。そこかしこにゴロゴロ転がってる「生焼け」な素材達が目に入る度、何か釈然としないものを抱えてしまう映画でした。面白かったですけどね。

 で、肝心のショージさんはたった 2 シーンの登場ながら、正しく「ショージさん!」という空気を放つ、良い使われ方をされておりました。予想では、もっと酔っぱらった感じのオヤジみたいな感じの役所かと思っていたけれど、優しいお友達役。小日向さんと並ぶ姿がハマりすぎてて良かったです。これを見抜いた鈴井、えらい!(え?)