はてなダイアラードラマ百選

  • 【スタッフ】
    • 脚    本:野島伸司
    • プロデュース:梅原 幹・重松 修・高木治男
    • 演    出:細野英延・古賀倫明・大谷太郎・萩原孝昭
    • 音    楽:千住 明
  • 【主要キャスト】
  • 【ゲスト】
    • 小川すみれ / 広末 涼子(第 1 話)
    • 泉  誠司 / 袴田 吉彦(第 2 話)
    • 仁科 鏡子 / 遠山景織子(第 2 話)
    • 興絽 一郎 / 斉藤 洋介(第 2 話)
    • 津田 昭文 / 清水 紘治(第 3 話)
    • 津田 愛美 / 小田エリカ(第 3 話)
    • 岡林  聡 / 布施  博(第 4 話)
    • 山内 羽夢 / 真柄佳奈子(第 4 話)
    • 山内  徹 / 谷   啓(第 4 話)
    • 佐々木留美 / 純名 里沙(第 5 話)
    • 星野  守 / 三上 博史(第 5 話)
    • 広田  馨 / 藤原 竜也(第 6 話)
    • 真中  徹 / 徳山 秀典(第 6 話)
    • 広田  勤 / 永島 敏行(第 6 話)
    • 真中 良美 / 手塚 理美(第 6 話)
    • 広田 清美 / 南  果歩(第 6 話)
    • 石田 涼子 / 池脇 千鶴(第 7 話)
    • 石田  基 / 大江 千里(第 7 話)
    • 石田真紀子 / 桜井 幸子(第 7 話)
    • 影山 歩美 / あづみれいか(第 8 話)
    • 影山 良希 / 島田  亮・島田  潤(第 8 話)
    • 影山 睦美 / 持田 真樹(第 8 話)
    • 影山 宗一 / 田中  健(第 8 話)
    • 男   / 大沢たかお(第 9 話)
    • 牧野 冬子 / 永島 暎子(第 10 話)
    • 大島 武朗 / 杉浦 直樹(第 10 話)
    • ピーターパンの少女 / 伊藤 歩(最終話)
    • 三島 麗美 / ジョイ・ウォン(最終話)

ハローベイビー
僕はきっと愛を知らない
君もそうならついておいで
この果てしなき物語の彼方へ

 海の近くにある、どこかの街。

 そこにひっそりとある廃車置き場のオンボロバラックで、二人の男と一人の女が、一人乗りの潜水艦を作っています。ひとりは、結婚式の最中にフィアンセに逃げられた、冴えないけど純粋なメガネ君、野亜亘(竹野内豊)。ひとりは、大学の学長選で裏切りに遭い、ノーベル賞候補にまで挙がりながら、今や目に見える全てのモノを失った元海洋工学教授、百瀬夏夫(山崎努)。そして、正体不明の、ミア(坂井真紀)。

 三人は、野亜と百瀬がそれぞれの理由を苦にして偶然同時に自殺を試みたのをきっかけに出会い、百瀬の「潜水艦を作る」という目標を、行くところを無くした野亜はバイトとして、どこから来たのか分からないミアは好奇心から、それぞれ手伝うことになったのです。

 このバラックには様々な人が訪れます。百瀬の親権のない娘、佑香(松本恵)、近所の小学校の教師で暮れに結婚する、羽柴里美(木村佳乃)。そして、様々な形の「愛」を抱えた人々。様々な出会いと別れの中で、二人の男は自分が失った、また見失った「愛」という言葉、そして概念について考えを巡らせ、やがてそれぞれの答えを見つけていきます。

ハロー、ベイビー
僕はいつも不思議だね
人は見えるものを欲しがるんだ
いずれ自分は消えていくのに

 このドラマは、一言で表すと「『愛』について考えるドラマ」です。全 11 話、1 話完結型で、11通りの「愛」が描かれていきます。男女の「愛」、親子愛、家族愛、死と愛。様々な愛が、様々な形をして、主人公達の前に降りかかります。

 ここで描かれる 11 通りの愛は全てどこかが「異常」です。例えば、信じることが出来ずに恋人を殺してしまった女の愛。妻の死を認知しようとせず、変わらず愛し続けようと苦しむ夫の愛。オリジナルに対して成し得なかったが故のクローンに対する作られた愛。それらは一見、異常で、事実毎回野亜亘は、純粋で未熟が故のなんらかの嫌悪感を感じます。

 ですが、彼らは決して所謂「異常者」ではありません。むしろ、普通の人よりもずっとまともかも知れません。故に、それらは同時に「真実の愛」としての側面をどれも持っています。言葉や概念は曖昧だからこそ言葉や概念足り得るものであり、言葉や概念に対するあらゆる具体性は真実であると同時に虚偽であると言うことも出来ますし、当人にとって真実で有れば、それは真実と認知しても良いのでは無いか、という考え方も出来ます。

 百瀬夏夫は、そう言った 11 通りの愛の形からそれぞれの真実を抽出します。例えば、信じることが出来なかった女からは「愛とは、信じることですらなく、ただ疑わないこと」。妻の死に苦しむ夫からは「愛とは、相手の死を認知しないこと」。

 百瀬の言葉は、常に「彼らの」愛という現実から想起された個人の言葉です。大して、野亜の言葉は理想から想起された、大衆としての言葉です。故に、彼らはしょっ中衝突します。百瀬は、目の前の果てしなき現実を、自分の悲しき愛の経験を交えて、切々と語ります。野亜は、理想を武器として、時に現実を否定し、時に肯定します。

 そして、出会いと別れを経験していくことで野亜は成長し、百瀬はあることに思いを馳せ始め、二人のこういった関係性は変化していきます。

ハローベイビー
ピクニックに出掛けよう
不格好なお握りまんまる頬張って
僕はやさしくなれるだろう

 これが放送されていたのは、今から 5 年前です。このドラマは一応「愛の物語」なのですが、オンタイムで観ていたときの僕の印象的には「野亜の成長」と「男の友情ドラマ」でありました。

 野亜亘は、最初の頃は本当に冴えないダメなだけの良い奴で、行き当たりばったりのところがあり、何度もバカなことをやります。その度に百瀬に諭されるのですが、それをも滅茶苦茶な反論で受け付けなかったりしてしまうのです。そして、密かに好意を寄せる里美先生にも、結局何も言えないまま。

 しかし、様々な人との出会いと別れの中で、野亜は成長します。そして、第 8 話。野亜は思い切った行動を起こします。僕はこのシーンがとても好きで、当時何度も観ました。勿論、当事者の野亜も良いのですが、それを密かに見守っている百瀬も大好きでした。特にそのときのセリフが。

「聞いてらんないけどな。サービスだ」

 最初、野亜は百瀬を軽蔑し、百瀬は野亜を見下します。しかし、時を過ごす内、野亜は百瀬を尊敬し始め、百瀬は野亜を愛しく感じ始めます(変な意味じゃなくてね)。この関係性の変化は、とても素晴らしいと僕は思っていて、その変化のスピードはとても遅く、気付くと全く進んでいない気もしてしまうほどのスピードです。しかし、その変化は着実に進んでいて、第 10 話のあるシーンで結実します。僕はこのシーンも大好きで、「友情ってなんて良いもんなんだろう!」と当時泣いて喜んだ記憶があります。単純です。

 しかし、その先にはその深くなった友情故の悲しみが待っていたりするのですが。

ハローベイビー
もし僕に会いたいのなら
僕も君に会いたいのさ
きっときっと会いたいのさ

 脚本は、ちょっと前には「プライド」で、今現在は「仔犬のワルツ」でとんでもないもの書いてる野島伸司(観ていた当時は、こんなん書く人とは思わなかったんですが……)。このドラマでも、さっきから間間に書いている自作の詩がドラマの最後に挿入されたり、毎回人が死んでたり、殆どはハッピーエンドで無かったりと野島節は全開です。

 その他、インチキクローン技術解説があったり、突然ショボい神話の引用をしてみたりと、トホホな部分もあり、何よりこのドラマは全体的に著しく説明不足です。しかし、個人的には、そういったマイナス要素が、逆にこの多分に観念的なドラマに強制的に想像力を引っ張ってくるプラス要素になっているような気がします。だから、観ている人は、無意識のうちに自分なりの「補強」を想像し、故にこのドラマはひとりひとりが唯一のドラマとして記憶し易いのではないのかと思います。

 そして、一話完結型故に、最近のドラマによくある複雑な人間関係というものが少ないのもプラスの要素だと思います。それ故、ひとつひとつの関係にフォーカスし易く、毎回毎回丁寧に描いていける原因にもなっていると思いますし。特に、百瀬と娘の関係をフォーカスした回などはとても印象的です。

 このドラマは、あくまで脚本と演技、そして視聴者の双方向からのアプローチによって完成し得たドラマなのです。

ハローベイビー
泣かないで
偽物の愛をつかまされたら
僕がホントのにかえてあげるよ

 今やすっかり二枚目俳優の竹野内豊が、ここでは所謂「のび太くん」キャラです。ちょっとしたことですぐに涙ぐみ、いつまでも同じことをぐじぐじ悩んでいる冴えない男を、時たま、セリフ回しがヤバイ時があるものの、素晴らしく好演。最初から最終話まで観た人は、必ず野亜亘への好感が押さえきれないほどに吹き出すこと間違いなしかと存じます。

 山崎努さんは、流石の貫禄の演技で全体のドラマをズシッと支えてくれます。キャラはもの凄く薄情なキャラなのですが、その演技はメガトン級の素晴らしさ。特に僕が感動したのは、山崎さんの「笑顔」の種類の多さで、野亜に、ミアに、里美先生に、そしてゲストに、と向ける笑顔が全部違うという、凄まじい役者の技量を見せられた気がしたのです。放送当時から 2 〜 3 年は山崎さんに足を向けて寝られませんでした。あと、当時個人的に、「荒ぶる魂」と「サービスだぞ」は、個人的に流行語大賞もののハマり具合で御座いました。。

 そして、今や「ココリコミラクルタイプ」で別ベクトルになられた坂井真紀さん。坂井さんの「無害な演技」も、やはりとても素晴らしかったです。ミアは、言葉もろくに喋らない謎のキャラ故に、神出鬼没でとてもご都合的に使われます。例えば、独白の聞き役など。ですが、坂井さんの無害な演技のお陰で、そこに不自然さはありません。そして、その無害な演技が、一瞬、ほんの一瞬だけ崩れる、「ミア」としてのラストシーンは必見の素晴らしさ。坂井さんの役者歴の中で燦然と輝いて欲しい一作になっていると思います。これ以降、暫くは普通のセリフを喋っている坂井さんに違和感を隠し切れませんでした。

 その他、一話完結型故に、ゲストが毎回来るのですが、それぞれが、野島がそれぞれに当て書きしたのではないかと思うほどにハマり役で、皆さん好演していました。特に個人的に印象が強いのは、第 9 話の大沢たかお。役としてはかなりショボいオチが付いた 11 話中では若干損な話なのですが、それを大沢たかお自身の演技で何割増しにもしてくれていた印象が残っています。役者がドラマを作る典型のような回。

 役者陣に恵まれたことによって、どこかふわふわとしたこのドラマは、どこか厳しい現実味を帯びることが出来たのだと思います。

ハローベイビー
僕がみかん色の夕陽にとけても
僕のことを忘れないでね
どうか僕を忘れないで

 このドラマは、当時まだ音楽に興味が殆ど無かった僕が、初めて「音楽の力」に感謝したドラマでもあります。

 千住明の劇伴(……って言うのかな?)は、どれも気合い入っていてドラマの盛り上げ役として事欠きません。そしてそれ以上に、既発曲であるはずのジョン・レノンの「LOVE」と「Stand by me」の持つ素晴らしき力に、僕は何度も涙しました(心で)。

 野亜の笑顔にかぶる「Stand by me」。夏夫の背中にかぶる「LOVE」。それは、素晴らしき一体の風景であり、音。音楽とは、歌とは、これほどまでに人の心を揺さぶるものなのか。当時の僕は感動しました。今考えれば、映像に騙されていたのかも知れないし、英語でろくに歌詞も分からないくせに、「感動した」も何も無いとは思うのですが、当時はとにかく、この二曲が流れるシーンでは、常に何らかの感情の噴出を押さえることが出来ませんでした。

 音楽の力に、感謝します。

ハローベイビー
優しさって
無限に続く愚かなほどの優しさって
いつかは愛にたどり着くのかな

 個人的に最も好きなのは、やはりラスト二話です。

 第 10 話にて、余命短き百瀬は、野亜にある頼み事をします。それは、人生で唯一の後悔、そして確認。それは、単なるエゴであり、単なるわがまま。百瀬は、昔、唯一愛した人の未だに続いているかも知れない愛の確認を頼みました。しかし、その結果は、百瀬にとってはとても残酷なものに見えました。ただ、ただ一つの事実を残して。その事実を目の当たりにしたときの、百瀬と野亜の顔を、僕は忘れることが出来ません。

 そして最終話。野亜は、百瀬から全てを受け取ります。そして、百瀬から、そして今まで出会った全ての人から受け取ったことで、野亜はある場所に帰結します。そして、野亜はある女性を救い、百瀬の夢を受け継ぎます。連綿と流れゆく時間の中で、ただひとつ受け継がれた「夢」。そして、ある言葉。そして、別れ。実は、僕は未だに最後の野亜の決断の真意を掴めずに居るのですが、それでも、ラストシーンは僕の深層心理に残る、大事なシーンとなっています。

 ありがとう。

ハローベイビー
心が壊れてしまうのは
いつか君が僕だったからさ
そして僕が君だったからさ

 今現在、「非日常」のドラマはあまり歓迎されないようです。

 僕は、こういうどこかの土地で起きるファンタジーが好きです。テレビは総じてファンタジーでありますし、映画とは違い、どうしてもこじんまりとします(良い意味でも、悪い意味でも)。そこを承知で、小さく、深く「世紀末の詩」は描いているように思います。これは、テレビの弱みであると同時に強みです。こういう非日常的な楽しさを、もっと感じさせて欲しい、とちょっと思ったりします。なんか年寄り臭いですけどね。

ハローベイビー
不幸の手紙は僕が破ろう
この世に終わりなんかないんだよ
君を愛する僕がいるから

 このバトンが回ってきたときに、パッと浮かんだのがこのドラマでした。次々に浮かぶは、野亜の顔、夏夫の笑顔、ミアの叫び声。そして、数々のふわふわとした命題。この五年間、様々なドラマが始まっては終わっていく中で、情操的にも知識的にも全く以て今以上に果てしなく未熟だった僕が観ていたドラマがパッと思いつくことに、うっすら感動さえ覚えました。そして、同時に、そういうドラマとそんな時期に出会えたことに感謝をします。本当にありがとうございます。

 恐らく人間の生理耐久量を大幅に超えるぐらい長々と書いてしまいましたが、僕の「はてなダイアラードラマ百選」は以上です。もし、こんな下らない稚拙な文章を観て、少しでも「観たい」と思った方は、是非観て頂けると嬉しいです。きっと、形は如何であれ、心に残る一作となると思います。TheManは、「世紀末の詩」をとんでもなくリコメンドしております。だから、日本テレビさんは紹介料を(略)。

 次のバトンは、id:yasaiの渡瀬さんにお渡し致します。「はてなダイアラー映画百選」の創設者でもあり、ドラマも毎クール感想文を長文で書いておられる巨大建築ラヴ渡瀬さん。そんな渡瀬さんの心に残れたドラマとは?一体どんなドラマを選ぶのでしょうか?乞うご期待!それでは、よろしくお願いします。