「あしたの、喜多善男」

 僕は平和な世界が大好きなので、「みんなが良い人」という結末は特に不満には思わない。でも、ネガティブ方面のイヤ〜な説得力に比べて、ポジティブ方面が正直パワー不足には感じました。

 例えば、口では平太の考えた方法を止めようとしながらも、いざ自分の身に危険が迫るや否やあらゆる手を使って善男を殺そうとし、そんな自分をどんどん嫌悪していく、というリカと、今にも死のうとする善男に対する平太のまどろっこしい説明台詞との説得力の差。この辺のバランス感覚を欠いて……というか、多分取れなかったんだと思いますが、それはちょっと勿体なかった。善男の「死のうとする理由」と「生きようとする理由」のバランスが崩れて、全体としては何だかフワッとしてしまった様に思います。

 しかも、ポジティブ方面を補強するために「何でか分からないけど生きていた」というとんでもない荒技で登場した三波や、平太のあまりにも早すぎて都合の良すぎる過去との対峙、みずほの急な改心などなど、そこかしこで強引な手が目立った所為で、その傾向がより強まってしまった感あり。

 「喜多善男」というキャラクターは、ネガティブ善男含めてよく出来たキャラクターだと思うし、だからこそオーラスでの「ああそうだよ、全部知ってたよ!!」で始まるシーンの見応えは相当なものだった。他のキャラクターだって、物語の案内人である保険会社二人組の清涼剤っぷりを初め、キャラ・配置ともにパーフェクトと言えただけに、その傾向は大変残念であります。

 エピソードとしても、しのぶ誘拐騒動の辺りの話の転がりは、音楽と共に非常にスイングしてて観ていて本当に面白くて、「僕はしのぶに感謝している。みずほのことを考えなくて済んだから」と善男が回想するシーンでは、それまでの辛気くさくて暗いだけのエピソード群を我慢して観てきて良かったー!! と思うほど感動したもんだけれど、以降は上記の様な感じで「決まった結末に向けて帳尻を合わせている」感がちょろっと出てしまっていたのが痛かった。

 ただ、ここ最近のドラマではダントツに丁寧に作られていたことは確か。役者陣も巧者ばかりで(松田龍平は、暫く観ない内にちゃんとした役者になっててビビった)何気ない表情ひとつでシーンを作っていたし、演出も派手さを押さえて捉えるべきところを捉えて、この手のドラマにしては珍しく非常に見易かったのは声を大にして言いたい。

 個人的に気に入って何回か観てしまったのは、善男の殺害を断念した平太が、善男とビールで飲み明かしたときに言った善男の「こんなに楽しいのは初めてです」とか何とか(曖昧かよ)言ったシーン。あそこは若干本気で泣きそうになった。結局、その手のシーンは本当に「何気ないシーン」でだけ発揮されるという悲しい事態になってしまったけれど。

 ネガティブ方面を押し進めていって、善男が死んでしまう展開もアリだったろうし、寧ろそちらの方が筋は通ってしまったかも知れないけれど、個人的には善男の「明日」の明るさを、善男の「昨日」までをぶっ潰すぐらい明るく見える様描いて欲しかったと思います。

 役者の巧者っぷりを楽しみつつも、「もう、真っ正面から堂々とポジティブを描いて賞賛されるのは難しいのかもなぁ」と、平和好きとしては複雑な気分になるドラマでした。