ラーメンズ第8回公演「椿」

椿


 とても不思議なビデオでした。

 一本目のネタが、言ってしまうとわざわざこういう場でやる必然性さえ感じられないぐらい、実に普遍的で完成度の高い、完全な「芝居」、「ウルトラQ」とかの短編に出てきそうな話だったので、「三部作って言うぐらいだから、ずっとこういうノリなのかなぁ」と思ったら、二本目でいきなりその予想は裏切られます。

 二本目は、今度はすっごくオーソドックスだけど、やはり完成度は高い会話トリックネタ。多分、一部分を切り取っただけでも充分「ショートコント」として成り立つようなもので、芝居とコントの間の微妙なラインを綱渡り、と言った内容。この時点で僕は、「何?何なの??」という状態に陥り、そこにやってくる驚異の三本目。

 暗闇の中、ただ台詞が聞こえて(しかもテロップ付き)きたと思ったら、おもむろに証明が付き、ステージ上で展開されるモノ……。多分、あそこは「度肝抜かれた!」ぐらいに思っておかなきゃいけないところなんでしょうけど、僕はただひたすら、「えっ?ええっ?何?何が起きた?」とただただ、混乱して、巻き戻しを押しまくっておりました。笑うと言うより、完全に「呆けた」という状態。頭では面白いとは思っても、顔は全く笑っていない状態でした。

 前に、id:hilocoさんにリファ貰ったときに書かれた

おそらく『STUDY』見たあとに『椿』を見ると「え?・・・・・・えっ!?」というイギリスのコメディアンのような二度驚きが体験できるかもしれません。

というのが、果たしてこのことかどうかは分かりませんが、僕は、この三本目を観て確実に、思考回路のどこかが停止させられたような感覚に陥ったのは事実です。形式としては、竹中直人の某ネタと殆ど同じなんですが……。

 ただ、この「椿」は、そこでは終わらせてくれなくて、四本目はなんとものすっっっっごくオーソドックスなコントになり、五本目、六本目は再び一本目のような芝居チックなものに振れ、結果、前から自分で言っていた「ラーメンズの振り幅の広さ」というものを短時間に見せつけられることになり、笑いながらも完全に戸惑っておりました。

 そんな感じで戸惑う僕にトドメを刺したのが、七本目。その名も「日本語学校アメリカン」。

 「笑いは振り幅ですよ!」と言う岡村隆史の言葉がありますが、ここで展開される振り幅というのは相当なもんで、僕などはその余りの振りの速さに、慣性の法則で吹っ飛ばされたような感覚になりまして、そこで完全に活動停止。八本目も良くできたオーソドックスなコントで確かに面白かったのですが、七本目で完全に停止したため、あんまり印象に残っておりません。

 このビデオを観ている間、僕は完全にラーメンズ(というか、小林賢太郎という名の演出家)に翻弄されておりました。まさか、自分で言っていた「振り幅」に、結果的に振り回される羽目になるとは……しかもたった一本のビデオで。なんだか、「面白い」とか「完成度高い」とか、そんな感想より以前に、まず最初に「悔しい!なんか悔しい!!」と思ってしまうビデオでした。色んな方が書かれる、「ラーメンズと戦っている」というフレーズの意味が、なんとなく分かって瞬間でもありました。

 こういうビデオに収められた「振り幅」に耐えられたとき、また何か面白いものが見えてきそうな気がしますが、今のところ完全に翻弄されて終わってしまい、何となく“負けて”しまったような、そんな不思議な感覚が襲うビデオでした。ああ、悔しい。