「しあわせって何だっけ」

 明石家さんま師匠の知識に関しては、そんじょそこらの連中には負けない自信がありますが、こと音楽に関しては別。正直、全く知らん。いや、流石に「アミダばばぁの唄」とかは知っておりますけども、それ以外は知らない。

 数々の芸人達が、そういう活動を「恥」として封印する中、さんま師匠は未だに過去の音楽活動を「自慢」として取り上げることが多々あるわけで、そこまで言うならいっちょ聴いてみようじゃないの、というわけで手に取ったのが本盤であります。

 そんなわけで、聴いた明石家さんまベストアルバムですが、一曲目でいきなりダウンタウンブギウギバンドよろしくベースに合わせて語り出したときはどうしようかと思いましたが、全体的には紛う事なき 80 年代の歌謡曲でした。

 とてもピカピカキラキラしていて、低音がバッサリ無い感じの音像。「古き良き」と前置きしたくなるようなシンセサイザー。起伏よりは流れを印象に残すことに腐心したメロディ。一聴しただけで、「あぁ、昔の曲だな」と分かる感じであります。例えば、「真っ赤なウソ」で展開されるオーケストラヒットの音には取り敢えず意味無く技術の進歩に想いを馳せます

 本人が自慢する通り、甲斐よしひろTHE ALFEEの高見沢やら豪華絢爛な作曲陣なわけですが、その中でやはり群を抜いているのは桑田圭祐。「アミダばばぁの唄」は真剣に名曲。本人が 20 年近く自慢し続ける気持ちも分かるってもんです。まぁ、僕が「さんま師匠に『シングルベッド』とか歌われても……」と思う人間だからかもしれませんが。

 「アミダばばぁ」の何が凄いって、異様に地味異様にシンプルなのに異様に強烈という点であります。だって、単純に音数で言ったら片手で足りるし、メロディもおどろおどろしいぐらいに起伏は無い。そもそも、イントロだけだったら「バラエティ発」とは思えない。

 にも関わらず、この曲がビタッ!と印象を残すのはその「地味」と「シンプル」をおどろおどろしさでコーティングして、ぐっぐっと押し潰して別の食べ物にしちゃった点なのだと思います。一応、分類的には「コミックソング」だろうに、こんなにねばっこくして大丈夫か、とかよくこんなのヒットさせたな、とか色んな思いを自分内で交錯させた後、口では「あ〜みだくじ〜」と歌う、そんな曲です。

 これ以外の曲は、歌謡曲としたら良い曲もあるにはありますが、やはりインパクトの面でこの曲には負ける。同じ分類上には「あっぱれさんま大先生」がありますが、この曲とはコンセプトそのものが違うし、この 2005 年に聴いても特別な印象を持つのはやはり「アミダばばぁ」。う〜ん、凄い。

 あと、ひとつ意外だったのは、普段あれだけ声張ってるさんま師匠も、こと歌唱となるとびっくりするぐらい声が通らないのだな、ということ。「喋り」と「歌唱」って、使う筋肉そのものが違うんだろうな……と思い知った次第です。

 ただ、何年か前の「さんまのまんま」にますだおかだが出たときに、増田がさんま師匠の歌真似をするときはわざと下手に歌う、というネタがあったのですが、こうやって真面目に聴いてみるとそんなに下手じゃないですよね。正直言って、「アミダばばぁ」の最後のシャウトとか真剣に桑田圭祐と聞き間違えたもの。あれ?僕だけ?

 流石に「また歌って欲しい」とまでは思わなかったけれど、取り敢えずさんま師匠の自慢に「根拠がある」という珍しい事例(えー)ということが確認できるだけ、この盤には相当な価値がある気がします。結論は、「アミダばばぁ」名曲!ということで。

 あと、どうでもいいのだけど最終トラック「ボク知ってるヨ」って、さんま師匠全く歌ってないのに何故入ってるんでしょう?